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2016-09-11

2016年8月29日 英国 ベン・ネビス山(Ben Nevis) 英国最高峰を登る

A82国道沿いから望む、ベン・ネビス山(左側の峰)
ベン・ネビス山北壁、谷間に山小屋がある
今回イギリスでの登山は、スコットランドにある英国最高峰ベン・ネビス山(Ben Navis 標高1344m)が主目的である。26日にヘルブリン山と27日にブレンキャトラ山にそれぞれ登った後、さらに北上しグラスゴーからはA82国道を経てフォート・ウィリアム(Fort Willam)に、28日夕方に到着した。A82国道は、国立公園になっているロモンド湖(Lock Lomond)を過ぎると、がぜん風景が変わってい来る。ここからは、スコットランドのハイランドである。森もなくなり、延々と続く平原を走っていく。二車線であるが、特に指定されている部分を除き制限速度70マイル(約110キロ)で、車はビュンビュン飛ばしていく。峠を過ぎ、道は下って入り江の脇に出る。海に沿ってしばらく走り、フォート・ウィリアムスに到着した。途中で見た山も、とても特徴のある山が多く登りがいがありそうだ。

A82国道からの眺め
A82国道、二車線を車は100㎞以上で飛ばしていく
三姉妹ピーク(A82国道から)
ちょうどBank Holiday四連休の三日目にあたりホテルがとりにくい。結局、フォート・ウィリアムスから更に北へ10マイルほど行った、スピーン・ブリッジ(Spean Bridge)に宿をとった。街中で食事をとった後、さらにA82を進みSpean Bridgeに到着。天気も今日は途中運転中雨があったものの、ここでは晴れており明日が期待された。

ベン・ネビス山を時計回りに回遊
歩行高度表
ロンドンから車で往復
スコティッシュ朝食(右の黒いものがハッゲッツ)
朝早く起きてみると、天気は快晴。気持ちがはやる。7時半にホテルのレストランで食事をとる。ここはスコットランド、British BreakfastではなくScottish Breakfastである。普通のBritishにくらべてハゲッツ(Haggis)と呼ばれる羊の内臓(心臓、肝臓、肺の細切)を玉ねぎやオートミール、香料と一緒にかためたものがある。これはスコットランドだけの食べ物だ。(ちなみにイギリスでは、ヨーロッパ大陸の簡単なContinentalとハム、エッグのあるBritishの選択である)。 動物の内臓物は、台湾で普通に慣れているので違和感はない。食事をすませ、8時半前に出発する。

ビジターセンターに表示された装備一覧
A82国道をフォート・ウィリアムス方向に戻り、街に入る前に左にグレン・ネビス(Glen Navis、ネビス谷の意味)への道を進む。8時50分に駐車場に車をとめ、支度をする。駐車場の近くには、ビジターセンターがあるので立寄ってみる。入ったところには、装備の説明パネルがある。日本では富士山に相当するこの英国最高峰は、様々な人が訪れるので、天候が変わりやすく遭難防止のためにひときわ力を入れているようだ。ベン・ネビスのベンはスコットランドの言葉で山、ネビスは悪の意味ということだ。

お父さんハイカー
9時少し前に歩きは始める。先に川沿いに左に進み、吊橋を渡る。その後また右に川沿いに進む。左に大きな山塊があるが、これはベン・ネビスの前方にある山で本尊はここからは隠れて見えない。歩き始めて10分ほどで、川から離れて左に山の方向へ進む。石積みの壁ぞいを進み、家畜用の囲いを越える。道行く登山者はとても多い。赤ちゃんを背負ったお父さんハイカーもいる。9時25分、もう一つの囲いをのり越える。ここから、本当の登山道である。

山腹の道を登っていく、右はグレン・ネビスの谷間
老若男女、様々な人が登る
道は山腹をゆっくりと登っていく。10分ほどで両脇に大きな岩があちこちに置いていある。これは道に敷く石を切り出すためのもので、現在修復工事中だ。9時40分、右からユースホステルよりの道を合わす。その少し先から、ジグザグ道が始まる。登るにつれグレン・ネビスの谷がだいぶ見渡せるようになる。アジア系のハイカー家族を追い越す。おそらくネパール人か。Lake Districtの山ではまったく出会わなかったが、ここはやはり世界中からの人が登るようで、英語以外の言語も耳にする。

結構のぼてってきた、グレン・ネビスの谷あいが眼下に広がる
谷を挟んで右にベン・ネビスがまだ高い
道はおおむねとてもよい。ところどころ深く彫り込まれた脇の部分もあり、そのために道の修復が行われている。10時12分、木製橋を越える。その先、道は谷にそって左に回り込む。眼前にベン・ネビスの大きな山塊が谷を挟んで出現する。まだまだ、かなり高い。ここで標高約450m、頂上までまだ900mの落差だ。登山口が標高40,50mなので今日の登山は、落差約1300mになる。

登るにつれ、ベン・ネビス山が迫ってくる、この山腹を一般道が行く
右側に近道があるが、通らないようにとの注意書
天気はとても良いが、風はすこし冷たい。谷沿いに山腹を進み高度を上げる。突き当りで左に折れる付け根には、道筋があるがこれは正規の道でない近い道で、環境保護のため通らないようにとの注意書きがある。この近くで、下ってくる高齢の日本人婦人とすれ違う。名古屋からやってきたそうで、他のメンバーは登っているが調子が悪いので、一人先に下るということだ。スノードン山でも日本人登山者と出会ったが、ここも有名な山なのでうなずける。10時49分、石段の坂道は終了し、緩やかな道がしばらく続く。

しばらく緩やかな道を進む
分岐部から湖を望む、左がやってきた道、右に進む。背後は一般ルート
他の登山者はいなくなる、前方の分岐は右に進む
左に湖が見える。脇にはテントが張ってある。11時2分、分岐に着く。今回の登山ルートは、事前にイギリスの友人から別のルートを紹介されており、天候がよければそれを通る予定でやってきた。友人によれば、一般の登山道は物見遊山道(ツーリストルート)で面白みがないということだ。天気も良好、午後は下り坂という天気予報だが、左に道をとり一般登山道から外れる。こちらに入ると、他にはまったく登山者がいない。

ぬかるみ地帯を通り過ぎる、右前方には補修材料の石
左下に湖を見ながら、草原の道を進んでいく。すこし下り気味の道は、数分でまた別の分岐に来る。ここは右にとって進む。こちらの道は、道幅も狭くなり歩かれている程度が低い。分岐からすこし進むと、ぬかるみの部分を通過する。周囲には多くの岩が置かれており、これからこの部分の補修工事が行われるようだ。更に進み、道は右に回り込む。ケルンがある。そのあたりからは、西方向は前方の山の右側にフォート・ウィリアムの街と海が見える。北方向にはロッチィ湖(Loch Lochy)が望める。これらは、一般登山道からは見えない。

ケルンから見る、左遠くはフォート・ウィリアム、右の奥に湖が見える
回り込んでいくと、左に稜線、右に岸壁が現れる
岩と草の間に咲く紫のヘザーの花
道は回り込んで行くと、右にベン・ネビスの北側岩壁が現れる。左の谷を挟んで、ピークを二つ(Carn Deag Meadhonach,Carn Mor Dearag)持つ稜線が続き、ベン・ネビスからの尾根と合流する。友人の勧めは、この谷をずっと進み、山小屋(Charles Inglis Clark Memorial Hut)のところから稜線に上がってぐるっと回り、ベン・ネビス山を裏から登るというものである。谷間は、岩稜と下方にかろうじて生える草、そのなかに唯一の色添えヘザーの紫の花が咲いている。このような荒涼とした風景は、日本にも台湾にもない。天気が良いのが幸いだ。

振り返り谷間を見る
北壁が前方に現れる
対岸の谷底の沢沿いに行く道を二人の登山者が歩いている。登り気味の道をケルンのあるところから約1時間ほど歩いてくる。右の岩壁は、先の壁とは別の北壁が現れそびえる。北壁の上はちょうど頂上だ。霧が現れてきた。前方奥には、山小屋も見える。壁のはざまの奥に白いものが見える。どうやら残雪だ。この北壁は、冬季氷雪岩壁登山の対象だ。日照時間が極端に短いこの場所での冬季登攀は、かなりの経験者でないとできないだろう。沢を越え、12時42分、小屋に到着する。イギリスには高い山はないが、こうしたところで訓練を積んで、アルプスの高山に挑戦していったのではないか。

小屋(左上)のすぐ近くから望む北壁
小屋にある緊急用電話
山小屋といっても、鍵がかかっているので中には入れない。手前の平らな場所には、テントが張ってある。小屋の一部には、緊急用電話がある。小屋の裏には風力発電の風車、脇にはたくさんのガスボンベや燃料タンクがある。入口には、スコットランド山岳会(Scottish Mountaineering Club)の説明で、1918年にメソポタミアで死亡したキャプテン・チャーリー・クラークに捧げるとある。北壁を登るためのベースということだろう。

小屋の脇から見る北壁、岩壁の谷間には残雪
踏み跡をさがし歩く、前方は稜線で谷は右に折れる
小屋の後ろから歩き始める。まもなく、踏み跡がはっきりしなくなる。岩の折り重なる場所を過ぎる。教えてもらったルートを自分のGPSのルートと照らし合わすと、少しずれている。そこで、その方向に進んでみる。しかし踏み跡らしいものはない。谷の左岸には踏み跡らしいものが続く。しかし、地図上のものとは明らかに異なる。そうこうしているうちに、後ろから四名のハイカーパーティがやってきた。話によるとスイス人だそうだ。彼らも道がわからないようだ。

ザレ場を登る
もう一度、地図上の道を探していると、彼らは踏み跡を谷の上部へ登っていく。遠くから様子を見ると、どうやら問題なく進めるようだ。この道は単に岩場へのアクセスかと思っていたが、場合によったらそのままいけるかもしれない。そこで、道探しをやめて彼らの後を追って谷を登っていく。ザレ場もあり、足元はあまりよくない。時間はそろそろ14時だ。この後を考えると、このまま進んで稜線にでれればOK、もしダメならやってきた道を引き返すことを考えた。

登ってきた道筋を振り返る
部分的に踏み跡がある
先を行くスイス人パーティメンバー
しばらく登り、彼らが前方の急な岩場を登っているのを見る。どうやら問題なく行けそうだ。彼らの方向に進んでいく。踏み跡はある場所もあるし、はっきりしない場所もあるが、方向はわかる。幸いにまだ、天候は曇ってきたものの、霧はでていない。登っていくと岩の上に壊れた魔法瓶もある。ここは人が歩いているルートであることは確かだ。岩場を過ぎると、少し平らな場所に着き、左にトラバースしていく。対岸の尾根はだいぶ近づいてきた。大石が重なる場所に来る。これを乗り越えれば、登山道だ。

前方の岩場を越えて左の稜線に登る
岩場を通過する
岩場は無事通過、本来は前方のピークに登り尾根をたどってくる予定であった。
この大石セクションを越えれば稜線
15時11分、稜線にでる。反対側の景色が目に飛び込んでくると同時に、強い風にあおられる。ジャケットを取り出し着ける。雲がだいぶ低くなり、周囲の低い山は雲の帽子をかぶっている。ベン・ネビスの頂上方向は霧のなかだ。これで一番の難所を越えて、ほっと一息する。

稜線からの風景、周囲は雲が低くなってきた
踏跡ははっきりしない
踏み跡を追っていくと、そのうち大石セクションになり、はっきりしなくなる。方向を定めて進んでいく。日本の山のように、親切に方向を示すペンキの矢印やマーカーなどない。そのうち、鉄製のポールがあるのに気づくが、下にはなかった。雨が降り出した。風も強く、手袋をしていても手がかじかむ。おそらく体感温度は0度近いだろう。ベン・ネビスの8月平均気温は、2.8度~6.4度である。ビジターセンターで、必要な装備としてジャケットや手袋を示しているのがうなずける。

霧の中のベン・ネビス山頂、左が頂上の高台、右が避難小屋と観測所の廃墟
山頂の筆者
16時7分、広大な頂上につく。1910年代までにあった天候観測所やホステルの崩れた壁がある。そのすぐわきには、避難小屋と頂上の高台がある。雨交じりの霧で、展望は望めない。あと2時間早ければ、かろうじて部分的に展望があったかもしれない。しかし、それを言ってもしかたがない。頂上には、我々以外にも数人いる。どちらかというと、あまり普段登山をしていないような感じだ。英国の友人がいうツーリストというところだろう。

霧の中をケルンを頼りに下る

16時20分、霧の中を下り始める。こちらは、適当な距離を置いてケルンが建てられ、道もはっきりしているので、霧でも迷うことはない。すでに16時を回っているが、高緯度のこの地は、日暮れが8時過ぎだ。登山口まで残り数キロあるが、まだまだ明るく心配はない。同行のパートナーは足の具合がよくないので、速く下ることはできない。

雲の下にでて景色が現れる、右は朝に見た湖
折り返し始めたインド人登山者
ジグザグの道を下っていく。17時すぎ、霧が少し薄れた場所まで降りてくる。下方に、朝見た湖が見える。この時間に登ってくる、インド人が頂上まであとどれだけか尋ねてくる。あと、2時間は必要だろうと答えると、さすがに天候も悪いのでそこで折り返していった。服装も装備も、この天候とこの時間ではちょっと心もとない。更につづら折りの道を下り、18時過ぎに、午前中左におれて進んだ分岐に着く。ここで下り道の約半分だ。

回遊の分岐に戻る、朝はまっすぐ続く道を行った






この先は、朝に登ってきた場所だ。道については問題ない。ゆっくりとしたペースで下ってくると、19時56分ユースホステルへの分岐を通り過ぎる。20時30分、家畜の柵を乗り越える。太陽が沈み少し暗くなりかけてきた。前方にフォート・ウィリアムスの街の灯が見え始めた。20時50分、駐車場まで戻った。

だいぶ降りてきた、残りは少しだ
約12時間の活動時間である。歩行距離は約18㎞、登攀累計約1600mだった。一般路を進めば、おそらく3時間ぐらい少なく完了しただろし、また頂上からの展望もあったかもしれない。しかし、一般路では望めない北壁を仰ぎ見、またほとんど踏み跡のない道を登ったことは、よかったと思う。もし友人からのアドバイスがなければ、それ自身意味がないことではないが、単にツーリストであったと思う。樹木のない山は、天気が良ければすべて見渡せる。それはそれでよいことだが、距離感と実際の歩行時間を少し見誤り易い。

夕闇が迫ってきた
ビジターセンターに戻った
日本人でこの山に登る人は、基本的にイギリス在住で時間のある人か、自分のように山が好きでわざわざ登りにくる人だけだろう。そうした人が、このようなコースを進むことについては、経験がある人であれば問題ないと思う。あの道は、考えてみれば北壁を登攀した後、小屋に帰るための道なのかもしれない。ただし、天候には注意が必要だ。自分も最後の稜線への登りの部分で、霧で何も見えない状態だったら難しかったと思う。


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ベン・ネビス酒造(背後はベン・ネビス山)
ベン・ネビス酒造

Navis Dew
フォート・ウィリアムから北側に2,3キロいったところに山の名前と同様のベン・ネビス酒造会社がある。作っている酒は、もちろんスコッチだ。今回、山登りの後に立ち寄ってきた。時間がなかったので、工場内ツアーには参加しなかったが、販売所で試飲ができる。Navis Dew(しずくの意味)というスコッチが、とてもよい。ブレンドであるが、甘味のある優しい味だ。筆者は一本購入した。ラベルには、もちろんベン・ネビス山が描いてある。


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